~固まってしまった二人~
「お魚基本技術の会」の最初のテーマは、「さんまのしょうが煮」です。つまり、さんまをさばかなければなりません。
毎年さんまの時期になると、いつもスーパーから買ってくるのですが、さんまを丸ごと買ってきて自宅でさばくと、どうしてもまな板が汚れるし、生臭さが残ってしまうため、いつも調理済みのさんまを買ってきます。でも今回は自分で調理しなければなりません。
自己流でやっていた時は、包丁でかき出していたのですが、そんな必要はありませんでした。包丁で一方を抑え、あとは左手で魚を引っ張るだけで、きれいに抜けてきます。鮮やかです。自宅に帰ってからもやってみましたが、きれいに取れるためうれしくなってしまいます。しばらくは、自宅で毎日さんまばかり食べていました。
続いて「いわしのイタリアンソテー」です。いわしを手開きにするのです。これは、初めてだと要領がいるようです。
私の場合、手開きにしようとしていたところ、たまたま先生が通りかかって、「もっと両手の親指をぐっと背中の方に入れて、あとは右の親指は右方向に、左の親指は左方向に引くだけです」と教えてもらったため、すんなりいったのですが、隣では美穂ちゃんが、両手の親指をいわしの腹に突っ込み、目の高さで空中にかざしたまま、固まってしまっています。
私は、声を掛けようかどうか迷っていたのですが、美穂ちゃんが、「助けてください」と訴えるような眼をしてこちらを見たため、私としても見過ごすわけにはいきません。「もっと親指をぐっと背中の方に突っ込んで…」と、今先生に教わった通りの事を教えてあげたのでした。ちょっと形が崩れましたが、どうやら無事にいわしを開くことができたようです。よかったよかった。
さて続いては、さばいたさんまといわしを調理します。「さんまのしょうが煮」を作る際に、さんまを煮ると、いくら新鮮だとはいえ「灰汁(あく)」が出てきます。したがって、これを取り除かなければなりません。私は「灰汁」は結構しつこくとる方です。
新妻が「灰汁」をとろうとしたところ、向かいにいた美穂ちゃんが、
「これが灰汁っていうもんですか?」
と、なにやら興味深そうに鍋の中をのぞいているではありませんか。今度はこちらが固まる番です。
「そうか、美穂ちゃんは、二十数年の人生の中で、灰汁を見たことがなかったんだ」
と思ったのですが、もちろん口に出しては言いません。これからどんどん勉強していけばいいのです。若者よ、頑張れ!
そういえば、こんにゃくに味をしみこませるために、包丁で斜め十字に何本も細かい切り込みを入れることを各自でやったのですが、ふつうは2~3mmの深さに包丁を入れるところを、美穂ちゃんは大胆に1㎝くらいの切り込みを入れたようです。
こんにゃくがちぎれそうになっていましたが、何事も勉強なのです。