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2009年8月26日水曜日

監査とゴルフと寿保年

~秋田の夏は涼しかった~


今年のお盆休みも秋田に帰っていました。ここ数年、夏に秋田に帰ったときは、高校時代の同期生と一緒にゴルフを楽しんでいたのですが、そのご夫婦の娘さんは神谷恭子さんといい、実は女子プロゴルファーの宮里藍選手と高校のゴルフ部の同期生で、一時プロを目指していたのですね。昨年も国体のゴルフで秋田県の予選を勝ち抜き、見事に県代表選手に選ばれた実績の持ち主なのです。今回は私の帰省時期と重なったため、それぞれ別のコースを3ラウンド一緒にプレーさせていただきました。私もあまりはずかしいゴルフはできないなと思っていたのですが、いずれも80台で回ることができ、大変楽しく過ごすことができました。 


監査とゴルフについていろいろ考えてみたのですが、監査は基本的にはチームプレーです。一人で大会社の監査をすることは、今の時代ではあり得ないといっていいと思います。従って、自分だけで判断したり、指示に従わなかったりすると、現場が混乱することになります。これに対してゴルフは個人プレーです。誰に迷惑をかけるでもなく、自分の考え、戦略、方針で思う存分プレーすることができます。もちろんその結果はすべて自分に跳ね返ってくるのですね。思うようにいかず、大たたきしてしまうのも自分の責任ですし、うまく回れたのも自分のゴルフの腕がよかったからです(道具のせいかもしれませんが)。ゴルフの根本的な面白さは、このあたりにあるような気がします。
また、ゴルフに結果論は禁物です。監査の現場では評論家会計士もそれなりに必要かと思いますが、ゴルフの世界では、評論家は嫌われます。「今のは打つのが早すぎた」とか、「肩が回っていない」とかいわれても、もう一度打ち直させてくれるほどゴルフは甘くありません。結果はすべて受け入れて、目の前のトラブルをどうリカバリーするかを考えなければならないのです。後悔してしまうと、後まで引きずってしまい、大崩れしてしまうこともしょっちゅうです。これは、私の仕事のスタンスにも共通しているのですが、人のミスは決して怒らない。起きてしまったことはしょうがない。では、次にどうするかを考えるようにしています。ゴルフから学ぶこともあるのです。
監査法人という組織に入ると、仕事に関してはある程度将来の目処が立ちます。3年後にはシニアになり、さらに5年後にはマネージャー、そして何年か後にはパートナーにと、ある程度将来像が見えるし、それに向って努力すれば、それなりに報われるでしょう。勉強すれば知識として身につくし、新しい仕事を経験すれば、次の仕事にその経験を生かして、ある程度余裕も生まれてきます。しかし、ゴルフの場合はこれがなかなかうまくいかないのですね。同じ失敗を何度も繰り返しますし、なかなか思うように上達しません(うまくなるのは言い訳ばかりです)。いくら反省しても練習しても、自分の思うようにならないのもゴルフの魅力でもあります。
仕事で成仏したらゴルフの練習に専念しようと思っても、多分思うように上達しないでしょう。忙しさを言い訳にすることなく、単純にうまくなりたいというひたむきさ、球を打つのが好きだという純粋さを忘れずにいれば、時間がなくても上達すると思うのですがね。


さて、秋田での私の役割がひとつありました。9月に全国の電力懇談会が名古屋で開催されるのですが、その懇親会の席で、秋田のおいしい日本酒をご披露するために、買出しに行かなければならなかったのです。さっそく、我が53年間の人生で最もおいしいと思われる日本酒である「寿保年」の造り酒屋「小玉醸造」に赴くことにしました。酒蔵見学をお願いしたのですが、東京ドームより広い面積を誇り、今年が130周年という歴史を感じさせる建物や、たくさんある秋田杉でできた大きな樽が並ぶ蔵の中を見せていただき、大変感動的でした。毎日5合飲んだとしても、死ぬまでかかってこの樽ひとつ分かと、人間の小ささを思い知らされたような気がしてため息を漏らしたら、笑われてしまったのです。建物の中をいろいろ案内していただいたのが、まだかなり若い方だったのですが、まじめに熱心に説明してくれました。秋田県人は基本的にまじめなのですね。地元の英雄で、世界的に有名な水中カメラマンである中村征夫さんが高校の先輩らしく、しかも小玉醸造の敷地内に彼の写真の展示室を現在作っている最中でした。11月には完成するんですと、目を輝かせていたのが印象的でした。
電力懇談会用と贈答用と、もちろん自分の分も購入し、満足満足。果たして冷蔵庫に入るだろうか?


秋田での最終日は、あの怪しい税理士が髪を短く刈って茶色く染め、口ひげ生やして丸メガネをかけて登場。陸軍大佐として戦死したじい様の亡霊かと思い、父親も一瞬ひるんだようでした(相当厳しい人だったようです)。怪しい税理士は、いつものようにひとしきり持論を展開し、500mlの缶ビールを6本飲んで、代行で帰っていったのでした。



2009年8月20日木曜日

受験生にお盆休みはないのです

~就職活動の思ひ出~


監査法人に勤務する皆さんは、四半期決算の監査も一段落し、お盆休みでつかの間の休息を楽しんでいることと思いますが、公認会計士試験の受験生にとってはお盆休みなど関係なく、特に論文式試験の受験生はいよいよ最後の追い込み時期を迎えることになります。体調管理には気をつけていただいて、万全の態勢で臨んでいただきたいものです。


私の場合は、今をさかのぼること約30年前、公認会計士試験2次試験(当時は2次試験が最難関でした)を初めて受験したのですが、合格しているような失敗したような微妙な状況で合格発表を待つことになったのでした。大学4年生で、試験終了後がちょうど夏休みだったため、当時実家があった青森市に帰ってなんとなく落ち着かない日々をぶらぶらしながら過ごしていたのですね。私の場合、大学時代に音楽やアルバイトをやっていたこともあり、1年間留年し、しかも就職するつもりもなかったため、今でいうところの「就活」もまったくやっていませんでした。すると親父に言われたのです。「いつまで居候するつもりだ」と。結局1回目は失敗に終わったのですが、2回目は背水の陣で臨み、なんとか合格することができました。


公認会計士試験2次試験に合格して、会計士補になったとしても、いきなり独立して開業するのは無理というものです。したがって、とりあえず実務を覚えるため、監査法人か会計事務所に就職することになります。今は公認会計士論文試験受験後、すぐに就職活動ということになっていますが、当時は合格後に面接が行われていました。合格したといっても、監査法人なるものがどのようなものであるのかよくわからなかったのですが、大部分の会計士補が監査法人に就職していたため、自分もとりあえずそうするしかないのだろうということで、受験仲間と監査法人めぐりを始めたのです。面接を受けたのは、外資系1、中規模法人1、大手法人2の合計4法人でした。


☆以下、私小説



東京での満員電車がいやで、しかも普通のサラリーマン、普通の会社人間には絶対になりたくないと考えていたため、大学時代も就職活動というものは全くやったことはなく、当然面接などというものも経験がありませんでした。

私は学生時代、グループを組んで多少音楽をやっていたこともあり、肩までかかるようなロングヘアーでした。面接を受けるからには当然髪の毛を短くしなければいけないのだと心に決め、バンバン「いちご白書をもう一度」という歌にもあるように、もう若くないさと言い訳して、清水の舞台から飛び降りるつもりで、思い切って髪を切った(つもり)のです。

面接当日、某中規模監査法人へ、スーツを恥ずかしいほどばっちりときめて(これもつもり)お伺いし、代表社員といわれるご年配の先生の面接を受けたのでした。顔を見合せて軽く会釈をし、とりあえず自分の名を名乗ったところ、いきなり面接官から「君の髪は長すぎるではないか」と先制パンチが飛んできたのでした。そして息もつかせぬまま立て続けに「これからは社会人になるのだから、他人に不快感を与えるような髪形はやめて短くし、身だしなみをきちんとしなければいかんのじゃないかね、エー君!」とワンツーパンチを浴びせかけてくるではありませんか。私はいきなりそのようなことを言われて驚いてしまい、その場を無言で退席しようかとも思ったのですが、そんなことをしたらとりあえずこの業界では食べていけなくなるのだろうなと冷静に考え直し、「ごもっともでございます」と心の中で呟いていたのでした。

その後、2法人ほど法人説明会に顔を出したのですが、なんとなくすっきりしません。ある法人の面接でのことです。そこには親しみやすそうな、そして愛嬌のある顔をした2名の先生と、まじめを絵にかいたような2名の先生の、両極端の4人の面接官がいました。一通り事務所の説明が終わった後、いよいよ質問が来る番です。私は一瞬身構え、予想される質問の模範解答を大事にしまっていたのですが、最初に来た質問は「ところで君は、酒は飲めるのかね」でした。私は「えっ????」と一瞬目が点になってしまったのはいうまでもありません。秋田生まれで酒量には自信があった私でしたが、酒量が多いことがはたして採用されるにあたって有利なのか不利なのか、とっさには判断できませんでした。とりあえず「ええ・・・人並みには・・・」と答えると、その面接官は満足そうにうなずいたのでした。そしてさらに追い討ちをかけるように、「じゃぁ歌はどうだ?」と質問してくるではありませんか。私が「えぇ、学生時代はギターを弾きながら歌を歌っていました」と答えると、ますます嬉しそうな顔をしながら「そうかそうか」とうなずいています。そうするうちに、隣の面接官が「君はこっちのほうはどうなんだ?」と、両手で麻雀の牌を倒すようなしぐさをしながら、不安そうに質問してきたのです。「えぇ、大学時代はよく雀荘に通ってましたけど」と答えると、その面接官の目がキラリと光るのを、私は見逃しませんでした。彼は、新しいお友達でも見つけたように、「フンフン」と楽しそうに笑っていたのでした。

面接ではいろいろありましたが、結局は大手監査法人に就職を決めました。決め手はクライアントです。当時はいくつかの監査室に分かれていたのですが、面接の際に、日本公認会計士協会の会長も務められたことのある「中瀬宏道先生の監査室に入れてください」と頼んだのです。そこには日本を代表するようなクライアントがたくさんありました。自分がそのような会社の監査を担当することができるなどというのは夢のような話です。今考えると怖いもの知らずというか、新人の分際でずいぶん思い切ったことをお願いしたものだと思うのですが、入所したら希望通り中瀬監査室に配属になりました。





30年前の私の就職活動の懐かし思い出話ですが、今思えば最後の古き時代だったのでしょうね。私も法人のリクルート活動や面接官を何年かやりましたが、監査法人の財産は人材そのものですし、採用される側も人生の大きな岐路ですので、今は採用するほうも面接を受けるほうも真剣勝負です。私の場合、最終的にはクライアントの充実度はもちろん、事務所の雰囲気、先輩のアドバイス、受験仲間の情報等を参考にして、ここなら大いにやりがいがあるのではないかということで決めました。初任給が高いとか待遇面には全く興味がなく、おもしろい仕事ができそうだな、日本経済に貢献できそうだなというのが決め手です。


受験生の皆さんも、試験が終わるとすぐに法人説明会があり、監査法人めぐりが始まると思います。目先のことに惑わされず、自分が公認会計士としてどんな仕事をしたいのか、将来どんな公認会計士になりたいのか、どんな雰囲気の事務所(厳しそうだとか自由な雰囲気があるとかアットホーム的だとか)で仕事をしたいのかというイメージをある程度持って面接を受けたほうが、自分にふさわしい職場を選ぶことにつながるのではないかと思います。


頑張ってください。



2009年8月11日火曜日

会計士協会全国研究大会が新潟で開催された

~公認会計士はいかにして地元に貢献できるのか~


 昨年は名古屋で行われた公認会計士協会の全国研究大会ですが、今年は8月5日の前夜祭に始まり、6日に新潟で行われました。今年の誕生日は新潟で迎えることになったのです。何しろ、昨年は主催者側でしたので、準備や当日の運営でいろいろ大変だったのを懐かしく思い出しました。新潟県会や東京会の皆様のご苦労はよく分かります。大変お疲れ様でした。今回私は出席するだけでしたので、申し訳ないのですが気が楽でした。すみません(思わず謝りたくなるほど、主催者側はいろいろ大変なのです)
 サブテーマに使われている「グローカリズム」という言葉ですが、ちょうど10年ほど前に新会計基準が登場しかけて、グローバルという言葉が世間ではやりはじめた頃、秋田という田舎出身の私が冗談半分で「グローカル」という言葉を既に使っていたのですが、まさか将来研究大会で使われるとは想像もしていませんでした。グローカルでもいいではないかとあらためて叫びたいですね。

 
 名古屋から新潟までというと、新幹線で約4時間です。12時から地域会会長会議が予定されていたため朝早い時間の出発でしたが、往復8時間というのは私にとっては貴重な読書タイム。東野圭吾の小説に没頭するうちに新潟到着。地域会会長会議では、地域会を含めた協会の今後の財政問題について話し合いが行われました。お金だけの話なのか、あるいはもっと遠くを視野に入れた議論の入り口の段階の話なのかはわかりませんが、時間をかけて取り組むべき議題だと思います。

 
 さて、理事会終了後は前夜祭です。せっかく新潟まで来たのですからおいしい日本酒を楽しまなければなりません。新潟のお酒というと、「久保田」「八海山」「〆張鶴」「越の寒梅」あたりは全国区で名古屋でも手に入るのですが、今回はそれ以外の銘酒を発見し、名古屋にまとめて持ち帰ろうとひそかにたくらんでいたのです。前夜祭で新たに発見したお酒は「吉乃川」でした。もう2~3種類と思っていたのですが、出遅れてしまったのかここまででした。翌日に期待。地域会の事務局の皆さんが前夜祭に参加できなかったのは、ちょっぴり残念でした。

 
 6日は朝から研究大会です。私はもちろん研究会場に足を運んだのですが、実はカミサンにはエクスカーションに参加してもらっていたのです。そして、そのコースには宝山酒造という酒蔵の見学が含まれているのですよ。私の新潟銘酒発見作戦第2弾です。いい大吟醸があったらゲットしておくように、という私の至上命令を受けて参加していたのでした(ウソですけど)。その間、私はまじめに研修を受けていたのは言うまでもありません。
 午前中の講義が終了し、昼食をいただくためにエスカレーターを降りていったところ、東海会の渡辺さんが下で待っているではありませんか。「越山さん、物産展をやっていますよ、いい日本酒はあとわずかですよ、昼食などとっている場合ではありませんよ。」と教えてくれたため、昼食をとらずにさっそく物産展に直行。名古屋の酒屋さんではなかなか手に入らないという「越乃寒梅金無垢」「越乃寒梅超特選」「朝日山酒造の長期熟成酒(轍)」を入手しました。いずれも2~3本しか残っていなかったので、よかったよかった。


 昼食後は午後の講義です。特に「地域社会における公認会計士の役割」には大変興味がありました。秋田出身の私は米どころ酒どころの新潟になんとなく親近感があり、いずれ将来は秋田に帰って地元のために何かできないだろうかと考えていたため、新潟県のパネリストの発表に大いに期待していたのです。特に、最近注目されている農業分野で公認会計士が革新をもたらすことはできないだろうか、新潟にそのような事例がないかどうか注目して聞いていました。でも、内容的には包括外部監査や地方自治体の公会計の分野等行政に関する話は出ましたが、残念ながら農業分野の話はありませんでした。質問をしようと思っていたら、タイムオーバーで終了。こうなったら将来自分がパイオニアとなって、農業に革新をもたらすしかないのだ。
 心に固く誓って会場を後にしたところ、カミサンからケータイに連絡あり。エクスカーションから帰って朱鷺メッセに到着したとのこと。さっそく待ち構えて酒蔵見学の成果を聞きました。ところが、高級大吟醸も置いてあったらしいのですが、見学の後の販売時間があまりなく、参加者の40人が一気に殺到したため、買うのを諦めたというではありませんか。なっ、なんということでしょう。作戦第2弾は失敗に終わったのでした。


 それにしても火坂さんの基調講演はなかなか面白かったですね。着物姿もよかったです。私も来年の2月にあるデザイナーに頼んで着物を作る予定で、たまたま先週の日曜日に帯の布地を物色し、結び方を教わってきたばかりだったため、大変興味がありました。もちろん話の内容にも引き込まれてしまい、真剣に聞いてしまいました。最近の会計士協会の広告も、このあたりが題材のような気がしましたが。


 さて、基調講演の後は研究大会の最後を飾る懇親パーティです。日本酒作戦第2弾に失敗してしまったので、こうなったら最後の手段、日本酒がたくさん置いてあるテーブルに陣取るしかありません。でもあわてなくても大丈夫。新潟を代表する日本酒がたくさん置いてあったので、安心していろんな銘柄をおいしくいただくことができました。ありがとね。新潟の研究大会も無事終了。昨年私は研究大会の期間中8回挨拶をしたのですが、尾内東京会会長も挨拶疲れされたかもしれません。主催者側の皆さん、たいへんお疲れ様でした。


 翌朝、新幹線の改札口のそばのお土産屋さんで、渡辺さんから聞いていた新潟の銘酒「北雪YK35雫酒」を発見。実りある研究大会となりました。新潟まできたら、このまま秋田まで帰ってしまいたかったのですが、仕事が待っているのだ。


2009年8月4日火曜日

監査法人にだって内部統制はあるのだ

~監査報告書作成プロセスの内部統制~


一時は監査の歴史が変わると言われ(言ったのは私もですが)、鳴り物入りで導入された「財務報告プロセスの内部統制」ですが、3月決算の内部統制報告書が出揃ったのをみると、結果的には(表面上かもしれませんが)特に大きな騒ぎになることもなく、なんとなく静かに着地した感があります。それというのも、「内部統制に重要な欠陥があり」という報告書を提出した会社は上場会社のうちのわずか56社で、2%ほどに納まったからです。アメリカのケースでは、導入当初は約16%でしたので、それに比べるとほんとに少ない会社数であるなぁという印象です。「重要な欠陥」といわずに「改善すべき事項」とでもしておけばもう少し多かったかもしれません。制度の本来の趣旨は、「改善すべき事項があったとしても、数年かけて徐々にいい内部統制にしていきましょう」ということであると私は考えているので、大規模会社から新興市場の小規模な上場会社まで含めて、約98%の会社の内部統制に「重要な改善すべき事項がない」というのは、なんとなくすっきりしませんね。今後「重要な欠陥がない」という報告書を提出した会社に、内部統制の欠陥に起因する会計不祥事等が発見されてしまったら、制度の信頼性が揺らぐことにもなりかねないので、注意していきたいところです。


一方で、内部統制を監査する立場である監査法人自体の内部統制はどうなのでしょうか。一般事業会社が「財務報告プロセスの内部統制」であるとするならば、監査法人の場合は「監査報告書作成プロセスの内部統制」といい変えることができるかもしれません。今全国で上場会社監査事務所として登録している監査法人あるいは会計事務所は、準登録も含めると約200あるのですが、「重要な欠陥」のある事務所はゼロであってほしいと願っています。
監査法人の「監査報告書作成プロセス」としては、一般的には監査計画から始まってリスクアプローチに基づく監査や実証手続の監査手続を行い、最終的には監査チーム内で監査結果について会計処理や表示の妥当性を検討し、上位者による調書レビューを受け、その結果を受けて結論を出し、さらに審査員の審査を受けて了解が得られれば最終結論を出すことになります。もちろんその過程では、意見が異なることもあるため、とことん議論して納得のいく結論に達するまで検討するのは言うまでもありません。監査チーム内でいろいろ議論している最中に、監査報告書に最終的にサインをするパートナーが、仮に「オレが責任を取るから・・・」とか「その問題はなかったことにしろ」などといったりしたら、その監査法人の「監査報告書作成プロセスの内部統制」には、「重要な欠陥があり」という事になってしまい、上場会社監査事務所としての登録をはずされ、業務改善命令を受けることになるでしょう。そのようなケースは今の時代、絶対にあり得ないと信じたいですね。どこの世界でも「オレが責任を取る」といった本人が、本当に責任を取ったことなどないというのはよく聞く話です。


NHKドラマ「監査法人」では、ジャパン監査法人の篠原理事長が担当していた銀行の、自己査定の監査で問題が発生し、結論を出す際にきちんと審査会で検討するというプロセスを踏んでいます。審査会においても、理事長が強引に審査を乗り切ろうとしたところ、監査チームが実情を説明し、審査会が理事長の意見を押し返してその決算書に対して適性意見を出しませんでした。審査に関する内部統制が有効に機能していたといえるでしょう。
それに対して、エスペランサ監査法人では、健司がプレシャスドーナツという上場を目指していた会社の財務諸表に粉飾決算を発見し、理事長の小野寺に対して適正意見は出せない旨を進言しました。ところが小野寺に「認めるしかないんだっ!」と一喝され、最終的には粉飾決算とわかっていながら監査報告書にサインしてしまったわけです。このケースでは、「監査報告書作成プロセスの内部統制」に重要な欠陥があったとしかいわざるを得ません。


このように、監査法人においては、単にその会社の担当パートナーの意見だけで監査報告書が作成されるわけではなく、審査員あるいは審査会に対して説明して、了解を得てから最終的に監査意見が表明されることになっているのです。内部統制が重要なのは、何も一般事業会社だけではないということですね。監査法人こそ内部統制をしっかり構築し、適正に運用しなければならないと思います。