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2009年8月4日火曜日

監査法人にだって内部統制はあるのだ

~監査報告書作成プロセスの内部統制~


一時は監査の歴史が変わると言われ(言ったのは私もですが)、鳴り物入りで導入された「財務報告プロセスの内部統制」ですが、3月決算の内部統制報告書が出揃ったのをみると、結果的には(表面上かもしれませんが)特に大きな騒ぎになることもなく、なんとなく静かに着地した感があります。それというのも、「内部統制に重要な欠陥があり」という報告書を提出した会社は上場会社のうちのわずか56社で、2%ほどに納まったからです。アメリカのケースでは、導入当初は約16%でしたので、それに比べるとほんとに少ない会社数であるなぁという印象です。「重要な欠陥」といわずに「改善すべき事項」とでもしておけばもう少し多かったかもしれません。制度の本来の趣旨は、「改善すべき事項があったとしても、数年かけて徐々にいい内部統制にしていきましょう」ということであると私は考えているので、大規模会社から新興市場の小規模な上場会社まで含めて、約98%の会社の内部統制に「重要な改善すべき事項がない」というのは、なんとなくすっきりしませんね。今後「重要な欠陥がない」という報告書を提出した会社に、内部統制の欠陥に起因する会計不祥事等が発見されてしまったら、制度の信頼性が揺らぐことにもなりかねないので、注意していきたいところです。


一方で、内部統制を監査する立場である監査法人自体の内部統制はどうなのでしょうか。一般事業会社が「財務報告プロセスの内部統制」であるとするならば、監査法人の場合は「監査報告書作成プロセスの内部統制」といい変えることができるかもしれません。今全国で上場会社監査事務所として登録している監査法人あるいは会計事務所は、準登録も含めると約200あるのですが、「重要な欠陥」のある事務所はゼロであってほしいと願っています。
監査法人の「監査報告書作成プロセス」としては、一般的には監査計画から始まってリスクアプローチに基づく監査や実証手続の監査手続を行い、最終的には監査チーム内で監査結果について会計処理や表示の妥当性を検討し、上位者による調書レビューを受け、その結果を受けて結論を出し、さらに審査員の審査を受けて了解が得られれば最終結論を出すことになります。もちろんその過程では、意見が異なることもあるため、とことん議論して納得のいく結論に達するまで検討するのは言うまでもありません。監査チーム内でいろいろ議論している最中に、監査報告書に最終的にサインをするパートナーが、仮に「オレが責任を取るから・・・」とか「その問題はなかったことにしろ」などといったりしたら、その監査法人の「監査報告書作成プロセスの内部統制」には、「重要な欠陥があり」という事になってしまい、上場会社監査事務所としての登録をはずされ、業務改善命令を受けることになるでしょう。そのようなケースは今の時代、絶対にあり得ないと信じたいですね。どこの世界でも「オレが責任を取る」といった本人が、本当に責任を取ったことなどないというのはよく聞く話です。


NHKドラマ「監査法人」では、ジャパン監査法人の篠原理事長が担当していた銀行の、自己査定の監査で問題が発生し、結論を出す際にきちんと審査会で検討するというプロセスを踏んでいます。審査会においても、理事長が強引に審査を乗り切ろうとしたところ、監査チームが実情を説明し、審査会が理事長の意見を押し返してその決算書に対して適性意見を出しませんでした。審査に関する内部統制が有効に機能していたといえるでしょう。
それに対して、エスペランサ監査法人では、健司がプレシャスドーナツという上場を目指していた会社の財務諸表に粉飾決算を発見し、理事長の小野寺に対して適正意見は出せない旨を進言しました。ところが小野寺に「認めるしかないんだっ!」と一喝され、最終的には粉飾決算とわかっていながら監査報告書にサインしてしまったわけです。このケースでは、「監査報告書作成プロセスの内部統制」に重要な欠陥があったとしかいわざるを得ません。


このように、監査法人においては、単にその会社の担当パートナーの意見だけで監査報告書が作成されるわけではなく、審査員あるいは審査会に対して説明して、了解を得てから最終的に監査意見が表明されることになっているのです。内部統制が重要なのは、何も一般事業会社だけではないということですね。監査法人こそ内部統制をしっかり構築し、適正に運用しなければならないと思います。