~日本酒の魅力について~
9月20日、税務委員会が無事終了すると、城塚副会長がうれしそうにやってきました。知り合いに頼んだら、来年の研究大会用に、銘酒「礒自慢」が12本手に入ることになったというのですね。一般的にはなかなか手に入らないお酒だけに、このグッドニュースには私も山田副会長も事務局の渡邉さんも、思わずニンマリしてしまいました。できればそのうちの一本は私に・・・と言いたいところでしたが、ここは我慢なのです。でも、本番の研究大会で、果たして礒自慢にありつけるかどうか、心配なのだ。
私は今名古屋市内に住んでいるのですが、出身は秋田県です。秋田といえば美人の産地、あるいは酒どころとして有名で、秋田でいい日本酒に出会った時などは、つくづく秋田に生まれてよかったなと思ってしまいます。
お酒の種類としては、日本酒のほかにもビールやワインとか焼酎があるわけですが、私の場合、実は10年くらい前までは、ビールが一番うまいと信じて疑いませんでした。特にゴルフで汗をかいた後であるとか、仕事をやり終えた後に飲むビールにはこたえられないものがあります。グビグビと飲んだあとに、かならず「プハ~」があるのですね。この一連の「グビグビ・プハー」が、我人生における最高の喜びのひとつであったわけです。
ところが、この「グビグビ・プハー」を上回る出来事が10年くらい前にあったのです。私は、年末になると実家の秋田に帰るのですが、父親が税理士をやっていることもあり、年末になるとたまにお歳暮をいただくことがあります。そしてその中に日本酒があったのですね。日本酒といっても、その頃は熱燗にして飲む本醸造のお酒しか知らなくて、その日本酒もそういった類のお酒だと思っていましたし、もちろん大吟醸という言葉自体もぜんぜん知りませんでした。
冷やして飲むお酒だといわれたので、冷蔵庫に入れていたのですが、ある時なにげなく飲んでみたのですね。「えっ?」と思いましたね。ちょっとまてよ、これはいったいなんだんだ?と。ためしにもう一杯飲もうとしたのですが、そこではたと気がつきました。日本酒独特のアルコールっぽいにおいがなかったのです。念のためにもう一杯飲んで見ると、やっぱりきりっとした、それまで味わったことのないようなうまさで、ほとんど魔法の水ではないかと思ったくらいでした。
ラベルをしみじみ眺めると、そこには「酔楽天」と書いていました。酔って楽しくなって天国に行くという意味だと思うのですが、中国の詩人の白楽天という名前との掛け合わせもあり、まことにいい名前だと思いました。この「酔楽天」がきっかけとなって、私のうまい日本酒を巡る旅が始まったということができます。
子供の頃といえば、大人がビールや日本酒を飲んでいるのを、不思議な気持ちで眺めていたような気がします。ビールにしても、こんな苦いものを何で飲むのだろうかとか、日本酒にしても、匂いをかいだけで気持ち悪くなるようなものを、大人はなんで飲むんだろうとか思っていたのですが、親父には、「おまえも大人になればわかる」なんていわれていたわけです。実際、自分がこんなに酒飲みになるとは、当時は全く思っていませんでした。
日本酒は、以前は特級・1級・2級に分かれていたのですが、私は、2級酒が一番日本酒らしくて好きでした。今考えてみると、本当に日本酒の味がわかっていなかったのでしょうね。若い頃はどちらかというと、味よりも量さえあればいいという発想で、なんとも情けなくなってしまいます。
先ほどの酔楽天は、結局秋田から帰るときに、10本ほどまとめ買いをすることになり、名古屋に帰ってから、しみじみおいしいお酒を味わったのですが、そこで私が思ったのは、他にもまだまだうまい日本酒があるはずだということでした。そこで、各地の地酒を探し始めることにしたのです。地酒の本を買ったり、雑誌で地酒の特集を組んでいたりすると、すぐ購入して写真を見ながらひとりでニヤニヤ笑いながら喜んでいたわけです。もちろん、秋田に帰るたびに片っ端からいろんな大吟醸を買いあさって飲み比べもしてみました。私が最初に飲んだ酔楽天の大吟醸は、720mlで3500円だったのですが、5000円のもありましたのでもちろん飲んでみました。でも5000円だからどうだということもなかったようです。
私は仕事柄いろんな地方に出張に行きますので、その都度地方の地酒を買い集めるようになりました。また家族で旅行した時も、必ず地元の有名な地酒を買い集めています。それに通信販売まで利用するようになりました。サライという雑誌でたまに特集をやっています。結局、秋田をはじめ、新潟、山形、仙台、金沢、富山、和歌山、京都、長野、伊豆、由布院、神戸、愛知、岐阜などのいろんな地方の地酒を飲んでみたのですが、いろんなお酒を飲んでいるうちに、飲むだけではなく今度は記録していきたくなってしまったのですね。
そこで考えついたのが、ワインのラベ貼を日本酒に応用しようということでした。ワインのラベル貼り買ってきて、それを日本酒のラベルのところに貼り付け、10分ぐらい置いてからはがすわけです。そうするときれいにはがれるのですね。台紙の裏にコメントを書く欄がありますので、そこに自分の感想と、評価、金額などを書いて、保存しておきます。通常のラベルはきれいにはがれるのですが、中には和紙でできたラベルがあって、これがうまくはがれてくれません。ゆっくりはがそうと思っても、途中で途切れてしまって失敗してしまいます。和紙のラベルのお酒というのは結構おいしいお酒が多いため、どうしてもラベルを保存しておきたいわけですね。で、失敗するとまたもう一本買ってきて、ラベルはがしに挑戦することになります。
そういった状況で、ラベル集めをはじめてからかなりの枚数がたまったのですが、ちょっと飲みすぎではないかということで、最近では自重するようになりました。
愛知県のお酒で有名な銘柄に、「空」があるのですが、なかなか手に入らないといわれているお酒です。ところがある時、なじみの料理屋さんから電話がかかってきまして、「空」が手にはいったというのですね。それでさっそくその店に行って、飲ませていただきました。確かにおいしいお酒で、みんなで1本開けてしまったのですが、その「空」のラベルをどうしても私のラベルのコレクションにしたいということで、空き瓶をわざわざ家までもって帰ったこともありました。家のカミサンにはあきれられてしまいましたが、私は結構思い込みが激しいほうで、しかも収集癖がありますので、そんなことも平気でやってしまうわけですね。
日本酒の本や雑誌などを参考にして、各地のいろんなお酒を飲んでみましたが、やはり、結論的には新潟と秋田のお酒が一番おいしいようです。中にはどうしても飲んでみたいけれど手に入らないやつもあって、その中の1つが新潟の地酒「〆張鶴」の大吟醸です。私は毎年お盆の時期になると、車で秋田へ帰るわけですが、高速道の新潟インターを出た後は、国道7号線を新潟からズ~ット走っていきます。7号線沿いに、村上市があって、ちょうどそのあたりを車でさしかかったら、「〆張鶴」という大きな看板が目に入ってきました。そしてそのそばには大きな造り酒屋のような工場のような建物もあったのですね。これは神様が私に〆張鶴を引き合わせてくれたんだと思いこみ、あわてて車を引き返して、その看板のある店の前に車を止めて、中に入っていきました。
そこの店には、ワインを保管しておくような大きな冷蔵設備が置いてあり、日本酒がたくさん保存されていました。そこで当然のごとく〆張鶴の大吟醸を探したのです。本醸造はすぐ見つかったのですが、大吟醸がないのですね。お店の人に尋ねたのですが、「予約しなければ手に入りません」というわけです。私はなんのためらいもなく、「来年の分を予約させてください。くださいったらください!」と、どきどきしながらいったのですが、返ってきた答えは、毎年予約が一杯で、しかも予約する人が決まっているため、その固定客が予約を取りやめなければ次の予約はできないという、冷たい返事でした。どうしてもあきらめきらなかったのですが、しぶしぶあきらめて、本醸造の〆張鶴だけ購入して、肩を落としながら、 秋田に帰ったわけです。毎年車でそこを通るのですが、いまだに〆張鶴の大吟醸にお目にかかることはできていません。手に入らないとわかるとどうしても手に入れたくなってくるのが人情で、いつかどこかでかならず手に入れて、じっくり味わってみたいというのが、目下の私に夢なのです。
日本酒の楽しみ方ですが、これはいろんな楽しみ方があると思います。まず最初は、見て楽しむというものです。私はこういうお酒ですよとラベルが語りかけてくるのですね。いいお酒はやはり見ていても楽しくなってきます。有名なお酒では久保田なんかもなかなかいいですね。
それから、ネーミングでも楽しめます。よく競馬の馬の名前でもなかなか面白いものがありますが、日本酒のネーミングにもなかなかいいものがあります。中には例えば「喜三郎の酒」のように杜氏の名前をそのままもってきているのもあり、杜氏さんの意気込みを感じさせるものもあります。そういうときは、杜氏さんと勝負してみることになるのですが、中には「参りました」と納得してしまう銘酒もありました。
また、においで楽しむこともできます。昔の日本酒は、とてもにおいで楽しむようなものではなかったわけですが、大吟醸はほんとにいい匂いがします。口の広い器で飲むと、香りを楽しむことができると思います。
もちろん飲んで味を楽しむのが最も重要なわけですが、大吟醸の傾向としては淡冷辛口が一般的に好まれる傾向にあるようです。私も淡冷辛口がすきなのですが、中には非常にフルーティな日本酒もあります。秋田や新潟は淡冷辛口が多いですね。飲んで楽しんでいい気分になって夢をみることができるわけです。
さらに、見て楽しむということの中には、色を楽しむこともあります。最近古酒が注目されるようになってきましたが、古酒には色があるのですね。日本酒を長い間熟成させて作るようですが、黄色や赤など、非常に鮮やかな色をしています。私がはじめて古酒を買ったのは、金沢で「百十瀬10年」という銘柄で、10年寝かせたものでした。色はもう黄金色というか、きれいな色なのですね。これが500mlで5000円もしたので買おうかどうかかなり迷ったのですが、ラベルのこともあり思い切って買ってしまいました。古酒はにおいもやはり独特で、味はほとんどブランデーに近い味でした。量を飲むお酒というよりも、どちらかというと、雰囲気を楽しむ酒という感じです。
器にもいろいろ凝ってきました。日本酒の場合は、ガラスの器が比較的合うということで、最初はやはりガラスのきれいな器を集めたわけですが、そのうち物足りなくなりました。古いものが好きなので、陶器で縄文時代をイメージするような器を探すことにしたのです。そこで行き着いたのが「松本洋一」という作家で、その人の杯や徳利や酒器を集めつつあります。それから漆もなかなかいい雰囲気が出るので、たまに気分を変えたいときなどに使っています。
最近では、以前みたいにひたすら日本酒だけを飲むということはなくなってきました。以前は、毎週、月水金に火木土、それに週一回日曜日と、要するにほとんど毎日飲んでいたのですが、今は、いい酒の肴がそろった時に日本酒を飲むようにしています。時間があるときなどは自分で魚を探しに行って購入し、自分で作った肴で、おいしい日本酒をゆっくり飲むというのが、やはり自分にとっては非常に贅沢な時間の過ごし方だと思っています。ということで、私の日本酒を求めるたびは、まだまだ続くわけであります。
ん?今回は本業とかけ離れた原稿となってしまいましたが、お許しください。