今から27~28年ほど前、私がまだ会計士補だった頃、出版社に勤めた高校の同級生の友人から「法律関係の雑学本を出版したのだが、それの税金版を書いてくれないか」という依頼がありました。自信はなかったのですが、文学部出身で当時からアメーバ人間だった私は、面白そうだからといってつい引き受けてしまったのです。法人に迷惑をかけてはいけないと思ったため、ペンネームを使って書きました。その本が昭和59年1月30日に「公人の友社」から出版された税金関係の雑学本です。ネットで検索したら出てきたので驚いたのですが、恥ずかしいので買わないでください。
それはともかく、その本の中にはこんな質問が書いてあります。
[質問] | クロヨンとは何のことですか。 | |
答A | 黒四ダムのことです | |
答B | 所得税の課税の不公平を言います。 | |
答C | 漫画の主人公の名前です。 | |
[正解] | B |
[質問] | サラリーマンには、何故必要経費が認められないのですか。 | |
答A | そんなことはありません。その気になって申告さえすれば必要経費が認められ ます。 | |
答B | サラリーマンに必要経費がかかることはほとんどあり得ないからです。 | |
答C | 事実上困難であるため、給与所得控除という方法を採用しています。 | |
[正解] | 出版当時はC。現在は、ほとんど利用されてはいませんがAも正解 |
クロヨンという言葉は最近あまり聞かれなくなりましたが、もちろんこの質問の正解は、黒四ダムでも漫画の主人公の名前でもなく、所得税の捕捉率の不公平さを表した言葉です。本来税金の申告は個人個人が自主的に行えばいいと思うのですが、日本のサラリーマンの給与所得は、会社つまり所得の発生源でまるまる100%把握されてしまい、有無を言わさず源泉徴収という形で仮徴収されてしまいます。そして最終的には年末調整で1年間の税金の精算が行われるわけですね。税金を徴収する立場からすると、こんなに確実な方法はありません。中にはアルバイトをしているサラリーマンもいるかもしれませんので、捕捉率は9割~10割でしょうか。
ところが自営業者のように、自主的に確定申告するケースはそうはいきません。税金はなるべく払いたくないもの、中には経費を水増ししたり、事業と家計の区別があいまいになったりとか、あるいは売上を除外したりするケースもあるかもしれません。心情的にはよ~くわかります。そのために税務署の調査が行われては脱税を指摘されることになるのです。所得の捕捉率は5割~6割といったところでしょうか。
農家のケースは所得の捕捉がさらに難しいといわれています。帳面など付けているのだろうか?私も将来農業をやるかもしれませんので、あまり大きな声では言いたくないのですが、3割~4割でしょう。許せ!
このように、所得の捕捉率を大まかに把握すると、サラリーマン9割、自営業者6割、農家4割となるため、それをクロヨンといっていたのです。
でも、その上をいく職業があるといわれています。それが政治家です。私は政治家にはなったことがないのでよくわからないのですが、選挙で土下座してでもなりたい人がいるくらいですから、いろいろおいしいことがあるのでしょうね。結論1割。そこで、政治家も加えた所得の捕捉率を表した言葉がトーゴーサンピンです。この言葉もあまり聞かれなくなりましたが、昔の人は面白いことをいいますね。
話は変わって給与所得控除です。サラリーマンには必要経費が認められないから、自営業者に比べて不公平だとよく言われますが、それは大きな誤りです。サラリーマンにはもともと給与所得控除といって、給与金額に応じて一定割合の控除が認められています。該当項目を個別に決めると手続きが面倒になるため、給与金額に応じて一律的に一定額が決められているのです。10年くらい前でしょうか、給与所得控除に代えて、サラリーマンにも必要経費を認めようという制度ができましたが、必要経費が非常に限定的であるため、この制度を利用している人は日本全国でも100人に満たないのではないでしょうか。制度としては全く機能していません。
結局大部分のサラリーマンが給与所得控除を利用することになるのですが、この給与所得控除に上限を設け、なおかつ役員クラスは半額にしようというのが、今回管政権が法人税率の引き下げの見返りとして打ち出している増税策の一部なのです。何しろ所得の捕捉率が100%ですので、こんなに確実に見込まれる増税は他にはないでしょう。全国のおとなしくて従順なサイレント・マジョリティの反応は如何に。