今回は、指板とヘッドの絵柄です。「ヤイリギター」があるのは美濃地方。今をさかのぼること400年ほど前、日本の文化が絶頂期にあった桃山時代に、この地方の焼き物である「志野」「織部」に特徴的な絵として、「沢瀉(おもだか)」が描かれていました。これを、日本文化の象徴として、「Silent Japan」に取り入れることにしました。
沢瀉は、平安時代に日本に渡来したようで、水田や沼地にひっそりと生息しています。めだたず控えめでいいですね。私のお気に入りの植物です。
当初の図案に描かれた通り制作されたのが、この指板です。
そして、この指板を、インレイが描かれたボディと組み合わせます。
さらにヘッド部分です。「静和」すなわち「Silent Japan」の象嵌と一緒に「沢瀉」が描かれています。
「加藤穂高さん」によると、ヘッドと指板に埋め込まれている沢瀉の材質は、「パロサント(緑壇)」という、とても重い香木で、大変珍しい南米産の木材だそうです。地味で渋いです。「パロサント」は、今はまだ薄い茶褐色ですが、時間の経過とともに木の表面が酸化して、より緑色に変化していく、という特徴があるそうです。沢瀉にふさわしいですね。
ちなみに「パロサント」をネットで調べてみたら、「聖なる樹」と幸福を呼び込む香木として、(幻の)インカ帝国の時代から、アンデスのシャーマンが大切にしてきた、と解説がありました。なるほど。
さて、この「パロサント」による沢瀉ですが、大変洒落たひと工夫がしてあります。上の写真ではよくわかりませんが、描かれた沢瀉の縁に、「スターリングシルバー925」の、とても細いラインが添えてあるのです。
こんな感じ。
この写真だと、「パロサント」で埋められた沢瀉の片側に、「シルバー925」のラインが埋め込まれているのがよくわかると思います。作業を始める前に、穂高さんからサンプルでいただいたのですが、このアイディアに関しては、ヤイリギターの皆様ともいろいろご検討されたそうです。なんておしゃれで素敵な発想なんだろうと思いました。
写真は、後日小池健司さんに、キーホルダー用に丸く切っていただいたものですが、丸い縁が、螺鈿細工用の貝でおおわれています。連れ合いに奪われそうになりましたが、何とか確保。もちろん今これを愛用しています。
穂高さんによると、「角度によって銀のラインが浮き上がる、まさに『いぶし銀』、といった仕様になりました」ということで、塗装によって、沢瀉に添えられた「シルバー925」のラインが、さらに浮き出てきており、控えめで大変美しいです。