~売れてしまった鉅鹿の盃~
いろいろ調べたり連絡をとってみると、鉅鹿の出土品で盃に使えそうな作品が、東京都内の古美術店のところにあるのがわかりました。
何しろ大河の氾濫で土砂に埋もれ、800年ほどたってから出土したものです。
土銹まみれだと使えないし、美しくなければ飾っておくこともできません。
ここはやはり実際の作品を見て確認しておく必要があるでしょう。
すぐにでも東京に行きたいところでしたが、仕事がまだ終わっていなかったので、一段落するまで我慢我慢。
県から依頼されていた業務に関する報告書が印刷に回り、ようやく仕事にめどがついたので、古美術店に連絡して見ました。
「鉅鹿まだありますか?」
「ああ…鉅鹿ね。
先日お客様がお見えになって、買っていってしまいましたよ!」
「なっ!…なんですと!」
…あり得ない…。
私の鉅鹿への想いが届かなかったとでもいうのでしょうか…
古美術商は言います。
「そのお方はとても研究熱心な方でしてね、なんでも…突然鉅鹿のことが気になりはじめたそうですよ」
「あんな発掘品のどこがいいんですかっ!
今すぐ取り戻してくだニャンコ」
普段冷静な私も、珍しく逆上してしまいます。
「そういわれてもねぁ…そこまで言うなら…
あなた様が購入金額に少し上乗せして、そのお方から買い取られたらいかがでしょうか」
「いったいどこのだれなんですか…
その鉅鹿の盃を買った人というのは! ハァハァ」
「北のほうから来たといっていましたよ。 名前は…なんとかまろ…
確か…越麻呂とか言っていましたがね…」
えっ!